痛みのケアと親・家族

NICUでは様々な痛みを伴う処置が実施されますが、新生児を痛みから護ることを目的に、わが国では2014年に痛みのケアに関するガイドラインライン1)が初めて公表されました。それに伴い、新生児の痛みに関する医療者の理解も深まり、痛みのアセスメントや緩和法が普及、実践されるようになってきています。また、ガイドラインには痛みのケアを実践するうえでの基盤が示されており、その一つが「家族中心のケアの理念に基づき家族と協働する」ということです。
痛みのケアにおける家族との協働に関連して、2014年に母親に質問紙調査2)が実施されています。ここでは、調査結果を通して、わが子の痛み体験やケア参加に関する母親の認識を理解していきたいと思います。

質問紙調査について

  • 調査期間:2014年11~12月
  • 質問紙の配布:NICU(19施設)に入院し、退院の見通しが立っている子どもの母親173人
  • 回答した母親の背景:新生児の出生時平均体重1840g(480-4140g)、在胎平均週数32.9週(22-41週)、人工換気療法51人
  • 分析対象:回答を得た106人の内、回答が50%以上記載されていた101人の回答

わが子の痛み体験に対する母親の認識

新生児の母親は「わが子の痛み」をどのように捉えているでしょう。これから紹介する調査結果は、国外の先行研究3)と同じような結果になっています。具体的に見てみましょう。

Q1 入院中のわが子を見て「痛いのではないか」と思ったことがあるか?

円グラフ
  • はい:82(81.2%)
  • いいえ:17(16.8%)
  • 無回答:1(1.0%)
「痛いのではないか」と
思った時 思った理由
  • 皮膚穿刺:採血 血管確保 点滴
  • チューブ関連処置:
     栄養チューブや気管チューブの挿入・抜去・
     吸引
  • 皮膚損傷:絆創膏かぶれ 液剤漏れ
  • 眼底検査
  • 術後:動脈管結紮術 網膜光凝固術
  • 処置に対する反応:
     啼泣 泣き方 四肢や体幹の動き
     顔表情 顔色 心拍呼吸状態
  • 大人にとって痛い処置
    (例:同じことをされたら自分でも痛い)
  • チューブ類に繋がれた姿

結果:自由記載による回答をカテゴリー化

結果を通して

神経のミエリン化が未熟なため「新生児は痛みを感じない」という誤解に加え、自ら痛いと言葉で訴えられないことによって、長い間、新生児の痛みのケアは見過ごされてきました。
現在では、正期産児はもちろん早産児も痛みを感じることができ4-6)、しかも、同じ痛みでも正期産児よりも早産児の方がより強く感じる7)と考えられています。さらには、成人に比べ、下行性抑制系の発達が未熟な新生児は痛みをより長く経験する7)とも考えられています。
調査では、81%の母親がわが子を見て「痛いのではないかと」と思っており、痛いと思った時はNICUでよく行われる痛い処置や検査等が網羅されています。
痛いと思った理由の一つに「痛い処置に伴う反応」があり、記載された反応は、新生児の痛みのスケールの評価項目に含まれるものです。また、理由の中には「同じことをされたら自分でも痛い」という回答があります。これは、言葉でコミュニケーションができない相手のことを自分に置き換え想像してみるという、私たち医療者が忘れてはならない行動パターンであり、感性でもあると思います。

Q2 わが子が経験した痛みについて心配に思ったことがあるか?

円グラフ
  • はい:58(57.4%)
  • いいえ:25(24.8%)
  • 無回答:17(16.8%)
心配に思っていること
  • 病状や回復への悪影響(例:身体に負担がかかるのではないか)
  • 将来的な精神的、心理的悪影響(例:トラウマになるのではないか)
  • 痛い経験の記憶(例:通院を嫌がるのではないか/痛みを覚えているのではないか)
  • 知覚過敏(例:体を触られるのを嫌がるのではないか/痛みに敏感になるのではないか)

結果:自由記載による回答をカテゴリー化

結果を通して

痛みは危険や危害から身を守るために必要な感覚ですが、新生児期に頻回に痛みを経験すると、知覚や認知・行動、近年では脳の発達に長期的な影響を及ぼすことが明らかにされています8-10)
痛みの影響を心配する母親は57%と半数を超える程度に留まっていますが、その心配は、痛みによる短期的影響のみならず長期的影響まで、広く捉えられています。
また、無回答の割合は17%近くあります。新生児期に経験する痛みの影響に関する知識が、母親に普及していないことが考えられます。
母親の心配を軽減していくためにも、可能な限り新生児を痛みから護ることによって、NICUで経験する痛みの短期的、長期的影響を最少化していく必要があります。これは、新生児の痛みのケアの重要な課題の一つです。

痛みのケア参加に対する母親の認識

「親は処置に付き添えない」という施設方針は、少なからずわが国のNICUにあります。この方針には、処置を行う医療者の緊張や処置に付き添う親の心理的負担を避けるという配慮が伺えます。
国外の研究では、医療スタッフのサポートや親のケア参加によって、痛みに関連した親のストレスが軽減する11)、また、親が痛みのケアに参加すると子どもの痛みに気づきやすい・緩和法がうまくできる・退院後の親としての役割達成がよい12)ということが報告されています。
冒頭で紹介したガイドライン1)には、親が痛みのケアに参加しやすくするための提案(下表)が示されています。調査結果を通して、さらに、親の参加を支えるうえで重要な医療者としての姿勢について考えてみましょう。

痛みのケアに参加しやすくするための母親からの提案
  • 参加に関する情報や選択肢を示す
  • 看護師から声をかける
  • 母親の気持ちや意思を尊重し、強制にならないようにする
  • 手順など丁寧に説明する
  • 話しやすく、相談しやすい態度を心がける

Q1 採血や吸引、チューブ挿入などの処置が行われる場合、わが子のそばに付き添っていたいか?

円グラフ
  • はい:78(77.2%)
    • 付き添って、痛みが緩和されるよう
      看護師と一緒に何かをしたい(40)
    • 付き添って、見守る(38)
  • いいえ:17(16.8%)
  • 無回答:5(5.0%)

Q2 選択した理由は何か?

「はい」を選択した理由 「いいえ」を選択した理由
看護師と一緒に何かをしたい 見守る
  • 自分にできることをする
  • 処置を知っておく
  • 子どもと痛みを共にする
  • 子どもに安心を与える
  • 医療者に任せる
  • 処置場面を知る
  • 子どもと痛みを共にする
  • 子どもに安心を与える
  • 医療者に任せる
  • 必要とされていない
  • 自分をせめてしまう
  • 辛くて見ていられない

結果:自由記載による回答をカテゴリー化

結果を通して

母親の77%が「はい」と回答し、付き添い方は「看護師と一緒に何かをしたい」と「見守る」がほぼ半数ですが、「いいえ」の回答は17%に留まっています。本調査に限りますが、わが子の痛みのケアに参加したい母親の割合が多いことは、新生児にとって好ましい結果と言えます。
選択理由を見ると、「見守る」と「いいえ」で共通する「医療者に任せる」には、「安全」「専門性」「自信のなさ」ということが回答の背景に伺えます。回答例を示します:お任せして安全に行われていた方がよい;医療的な知識・技術がないので下手に素人である自分が加わるのは不安;看護師さんや医師の方が手際よく経験があり、うまく処置してくれる。
「医療者に任せる」は、「看護師と一緒に何かをしたい」を選択した理由である「自分にできることをする」と対峙しています。
「いいえ」の回答には母親の自分自身に向かうネガティブな気持ち(責める・辛い)、「はい」にはわが子に向かうポジティブな気持ち(痛みを共にする・安心を与える)が出ています。
「はい」の場合には、処置や処置場面を知りたいという理由があります。わが子が経験する痛みを分かち合うために、わが子のそばで処置を「見て知る」ことが求められているのだと思います。
「いいえ」の「必要とされていない」という理由には、次の回答例にあるように、医療方針が如実に反映されています:痛みがあるのは可哀そうだが、医療のジャマになるならば無理に付き添わなくてもよい;席を外してもらうよう説明があった。

親の痛みのケア参加を支えるために

母親には、わが子へのすまなさや罪責感、邪魔かもしれないという所在のなさ、わが子に何もしてやれないもどかしさ、参加することへのためらいや自信のなさ、参加することによって強まる辛さなど、様々な気持ちが存在します。そして、1人の母親のなかでも様々な気持ちが行きかいます。
母親からの提案は、痛みのケアに限らず、NICUではどれも大切です。丁寧に母親の気持ちに沿いながら、その場限りではなく、母親と共に計画的にケア参加について考え、強制することなく準備していくことが求められています。また、手順や技術を学ぶ過程でも、母親の気持ちに寄り添い、処置場面では新生児だけでなく母親にも視線を注ぎ、参加していることを勇気づけ、少しでもポジティブな体験を重ねていけるよう支えることが求められていると思います。
痛みのケアに参加する親の第一歩を支えるには、心のケアに併せて、医療における親と医療者の対等性の保証、すなわち、医療チームとして親と医療者が協力し合いながら新生児を支えるという環境を「当たり前」とすることです。そして、それに向けて、私たち医療者一人ひとりが行動に移していくことが不可欠と考えます。
今回紹介した内容は母親にのみ言及しています。今後は、父親を含めて、わが子の痛みのケアへの親の参加について、さらに考えていく必要があります。

文献

  • 「新生児の痛みの軽減を目指したケア」ガイドライン作成委員会:NICUに入院している新生児の痛みのケアガイドライン(実用版), 2014.
  • 横尾京子,小澤未緒.NICUにおけるわが子の痛み体験とケア参加に関する母親の認識.日本新生児看護学会誌, 22(1):20-26, 2016.
  • Franck LS, Allen A, Cox S, Winter I. Parents’ views about infant pain in neonatal intensive care. Clin J Pain, 21(2): 133-139, 2005.
  • Lee SJ, Ralston HJ, Drey EA, Partidge JC, Rosen MA:Fetal pain; a systematic multidisciplinary review of the evidence. JAMA, 294(8):947-54, 2002.
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  • Simons SHP, Tibboel D: Pain perception development and maturation. Semin in Fetal Neonatal Med, 11(4): 227-31, 2006.
  • Mountcastle K: An Ounce of Prevention: Decreasing Painful Interventions in the NICU. Neonatal Netw, 29(6): 353-8, 2010.
  • Brummmelte S, Grunau RE, Chau V, Poskitt KJ, Brant R, Vinall J et al:Procedural pain and brain development in premature newborns. Ann Neurol, 71(3): 385-96, 2012
  • Abdulkader HM, Freer Y, Garry EM, Fleetwood-Walker SM, Mclntosh N:Prematurity and neonatal noxious events exert lasting effects on infant pain behavior. Early Hum Dev, 84(6): 351-5, 2008.
  • Emma G. Duerden EG, Grunau RE, Guo T, et al:Early Procedural Pain Is Associated with Regionally-Specific Alterations in Thalamic Development in Preterm Neonates. The Journal of Neuroscience, 38(4): 878-886, 2018.
  • Gale G, Franck L, Kools S, Lynch M. Parents’ perception of their infant’s pain experience in the NICU. International Journal of Nursing Studies, 41, 51-58. 2004.
  • Franck L, Outon K, Nderitu S, Lim M, Kaiser A. Parent involvement in pain management for NICU infant: a randomized controlled trial. Pediatrics, 128(3), 510-518, 2011,